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 今月の読書会はカフカを読んだ。こんなにおもしろいとは! といまさらながらのボンクラぶりを白状します。

 というのはずいぶん昔、『変身』を読みかけて、その無茶苦茶な設定と展開についてゆけず、途中で放り投げ、そのまま今まで“カフカ体験”無しに来てしまった。当時の自分にとってはまさに「意味不明」な小説でしかなかった。そう、若い頃の私は、小説に、しっかりした「意味」を求めて読んでいたから。

 自分の生き方にはまるっきり自信がなかった。経験も積むほどのものはないし、フリーランスでは生活も不安定。だから本の中に、生きていく指針のようなものを絶えず求めていた。ああ、これだ、みたいな揺るぎない哲学をいつもいつも探し歩いていた。蒼い顔をして本の森をうろつき、自分をしっかり支えてくれる哲人の言葉を求めていた。

 そんな若造にカフカが優しく手を差し伸べてくれるはずもなかった。カフカの短い寓話「掟の門」に出てくる門番と主人公が、まさにカフカと私の関係だったと気づいたのは、つい最近のことだ。「お前のためにいつもこの門を開けておいたのに、なぜ入ってこなかったのだ」と、死の間際の主人公に門番は告げる。

 そんな寓意性に満ちたカフカの小説を「わかる」には、数十年の時が必要だったのかもしれない。

 まだ、死の間際には程遠いと思いたいが、この年齢にしてようやく「カフカの門」をくぐったのかもしれない。