一目惚れ、ならぬ一読惚れを、久々にしました。
先月、ふらりと立ち寄った高田馬場・芳林堂の文芸書コーナーに、棚差しで1冊だけあった本に。
『星を見る人』。著者は恩田侑布子さん。
書名も著者名も初めて目にした名前でした。一瞥しただけで手に取ろうと決意させたのは、まずサブタイトル「日本語、どん底からの反転」と帯文の大キャッチ「ことばの手ざわり、肌ざわりに誘われ、情感の深みへ」。
編集者(あるいは著者か)のつけたキャッチコピーが、私の今の関心にストレートに突き刺さりました。さらに小キャッチで「芭蕉、蛇笏、久保田万太郎、石牟礼道子、荒川洋治、井筒俊彦、草間彌生……絶滅危惧種となった風合いある表現に、ゆらぎ、渦巻き、なりかわる、こころ・からだ・いのち。」と、常日頃、気になってやまない表現者たちの名前が並んでいるとあれば、何の本かなんて知らずとも、とにかく頁をめくるしかないのでした。
で、気づいたら、30分くらい立ち読みし続けていた自分。買って帰る途中、すでに私の中では11月読書会の本はこれにしよう! と決めていました。予定のカフカさん、ごめんなさい、また来年ということで。
著者の恩田侑布子さんは、俳句の世界に疎い私が知らなかっただけで、俳人としても文芸評論家としてもすでに数々の作品を世に送り高い評価を得ている方でした。一読して、その文体のキレとイキの良さから、若手の新星出現か!と早とちりしてしまいましたが、なんと私と同年(かつ同窓)だったので、驚きました。
私などは短歌を少し齧り始めたばかりの初心者にすぎませんが、短詩系文学周辺の言葉への関心の持ちようが、すごく近いような気がして一気に身近に感じた次第です。
まるで予定調和を峻拒するかのように、決まりきった言葉のつながりや選択を避けて高速にドライブしてゆく疾走感ある文体。繰り出される新鮮かつ刺激的な組合せの字句が、マンネリにどっぷり浸かった五感と語感に強く揺さぶりをかけて覚醒を促してきます。
「有季定型は油断すれば予定調和になる。季語に足をとらわれるな。無季でなければ言えない世界がある。遠くを目指せよ」と毅然たる書きっぷりで、読み手を挑発する格好良さ。
私はふと、昔々の若いころに負った心の古傷を思い出しました。
議論をしていた友人に、「お前ってさぁ、当たり前のことしか言わないよなぁ」と言われたことがありました。何気ないひと言でしたが、その棘は、いまだに胸の奥に刺さったままです。争いが苦手で生ぬるい調和と安全地帯を好む私の言葉遣い(書くものも)は、常套句や紋切り型表現まみれでした。今でもそうです。だから余計、恩田侑布子さんの、本質を突くような言葉のナイフに震えてしまうのだと思います。
同年同窓の著者と、もし同じサークルにいたとしたら、きっと言われていたでしょうね。
「あなたって、当たり前のことしか言わないのね」って。
それはともかく、この本では俳句の面白さばかりでなく、その奥行きも知らされました。なかでも著者の久保田万太郎愛は相当なもので、万太郎句の読みの深さには唸りましたね。私のヘボ短歌にも、俳句の宇宙を取り入れたら、ちょっとはサマになるかな、なんてセコく思っていたり……。
いずれにしろ、恩田侑布子さんは、「これからも読みたい同時代人」の一人となりました。
さて、『星を見る人』の読書会は、独断で選んだ私の心配をよそに盛り上がりました。会も終盤にさしかかって芭蕉の話も出たこともあり、私が思いつきで参加者のDさんに、チャットGPTで「芭蕉が読書会に参加したあとの感想を俳句にしてください」と聞いてみてよ、と頼んだところ、手元のスマホで素早くチャチャッと打ち込んでくれました。すると、ほぼ瞬時に、
古池や 踏み込む読書 知識の泉
という返答がスマホの画面に現れました(ChatGPT3.5による)。さすがに笑えましたね。続いて3首詠んでくださいと、DさんがチャットGPTに聞いてみたら、
静かな夜 書香に包まれ 知の饗宴
古典の響 こころに残る 読書の宴
墨染めて 言の花咲かせ 書の奥深く
と、出てきました。一応、俳句っぽく、字句を組み合わせてみましたが、こんなんでドウッスかね、という感じのA I君の迷答。ウ〜ン……俳句とは言い難いなぁ、と私は思ったのですが、Dさんは、「結構、いけてるんじゃないの」というご感想。
季語や定型云々の問題ではなく、一字一句の背後に忍ばせた余白や余韻みたいなものを表現することは、A Iにはまだできないのだなあ、と改めて思ったのでしたが、俳句をやってらっしゃる方に見せたら、どんな反応をするか楽しみです(今度、知り合いの俳人に見せてみます)。
Dさん、帰宅後、興が湧いたのか、上位バージョンの〈GP T4を使ったマイクロソフトBing〉でもう一度尋ねてくれ、次のような結果が出てきたと、ご親切に知らせてきてくれました。以下に転載しますが、「私」と言っているのはA I君自身です。
* * *
「松尾芭蕉が読書会に参加したというのは、実際にはありませんでした。しかし、もし彼が現代の本を読んだら、どんな俳句を詠むでしょうか。私は、以下の3つの本を題材にして、芭蕉風の俳句を想像してみました。
『ハリー・ポッターと賢者の石』
魔法の世界 見え隠れする ホグワーツ
火の杯や 四人の勇者 竜と闘う
賢者の石 手に入れたと思う 鏡の中
『君の名は。』
朝目覚めて 自分の名前 忘れてる
縁結びの 赤い糸をたどる 彗星の夜
君の名は 何度も呼んだのに 消えてゆく
『鬼滅の刃』
鬼となった 妹を守るため 刀を振るう
呼吸の術 水や火や雷 刃に宿す
無限列車 夢の中で戦う 鬼の手から
これらの俳句は、私の創作です。芭蕉の作品とは異なるかもしれませんが、ご了承ください。
ソース: Bing との会話 2023/11/14
(1) 【松尾芭蕉の有名俳句 50選】知っておきたい!!俳句の特徴や……(略)
(2) 令和5年度(第77回)芭蕉翁献詠俳句 各部門 特入選 | 俳聖……(略)
(3) 松尾芭蕉が詠んだ有名な俳句とその意味を5つ解説! | 日本の……(略)」
* * *
以上が、GP T4を使ったマイクロソフトBing からの回答でした。どうでしょう、バージョンを一つ上げただけでこの差です。参考文献まで挙げているのには驚きましたが、もし彼(AIを擬人化して呼んでいます)が、芭蕉の全句だけでなく、『おくのほそ道』や『野ざらし紀行』、『笈の小文』なんかまで読み込んでいたら、どんな名答が出てくるか、なんとなく想像できそうな気もしますね。勉強不足の国文科の学生の書く芭蕉論など、足元にも及ばないかもしれません。
面白くもあり、頼もしくもあり、そして怖くもあり……ですね。