一昨日から一泊で京都に行ってきた。恵文社で行われるトークイベントの参加と、延ばし延ばしにしていた友人のお墓参りのためだ。

 恵文社一乗寺店は、世界の書店を歩き回ったという某フランス人が「世界一美しい書店」と評価した本屋さんで、私が今まで行った書店のなかではベストと言ってもいい。店のたたずまい(内外装、棚づくりのデザイン、照明)はもちろんのこと、なんといっても品揃えが秀逸(いや、単に私の好みと合っているだけかも)。

 翻訳も含め文学書を中心とした人文書や芸術関連の本、リトルプレスなどが、3区画に分けられた真ん中のいちばん広いスペースの程よい高さの棚に並べられ、右側の区画には生活・料理関連本と素朴ながら良質な手作り感のある生活小物が置かれている。壁ひとつで隔てられた左側の区画には、文具や雑貨類が置かれ、奥の部屋はイベントスペース(喫茶スペース)となっている。

 ここに選ばれて置かれているどの1冊にも、どの一品にも、目利きの、野球でいえばストライクは絶対見逃さない選球眼をもった名手のワザを感じる。だから疲れるまで店内を何巡もしてしまう。読みたかったけれど機会を逸していた本との幸福な出会いを実現するのにこれ以上の舞台はない。まあ、本好き、書店好きにはたまらない瞬間でしょうか。遠くまで来た甲斐があるというもの。

 ただ今回は本を買うというより、恵文社を会場にした刊行記念トークイベントに来たのでした。少し前、発売されるやいなや即購入した2冊の著者による対談というから、遠路もまったく苦にならない。

『これからの日本で生きる経験』(編集グループSURE)の藤原辰史さんと、『世界を文学でどう描けるか』(図書出版みぎわ)の黒川創さん。テーマは「いま、わたしたちが生きている社会や世界 ─歴史と文学から考える─」というもので、著者、本の内容、テーマとも私の興味と関心のど真ん中。私にとっては気になる2人なので、この機会を逃すわけにはいかない。著書の中の文章だけでなく、その話しぶり、表情、人柄もナマで見てみたかった。ナマの姿から伝わってくるものもあると、私は常々思っているので。

 印象を簡単に言えば、藤原さんは若々しく自由闊達にして理路明快、黒川さんは沈思熟考して納得いく言葉のみを呟く感じ。鋭利なナイフと使い込まれた牛刀のような。なるほど、それぞれの書かれる文章と見事に平仄が合っている感があるのもおもしろかった。

 もうひとつ、つまらぬ印象を言えば、聴きにいらしているのはほとんど女性だったが、きっと良き読者というだけでなくファンなのだろう。お二人(特に藤原さん)は、いま流行りの言い方をすれば彼女(淑女)たちの「推し」なのかも。

 このトークイベントの開演は午後7時だったが、新幹線で京都に着いたのは正午。5時間近く、市内を歩いて恵文社のある一乗寺(叡山電鉄)に辿り着いた。その5時間は、南禅寺から哲学の道を歩き、法然院で亡き友の共同墓地にお参りし、そのあと銀閣寺、京都大学、百万遍、出町柳(叡山電鉄始発駅)という道を、その友を偲びながらゆっくり歩いたのでした。このことはまた次の機会に書いてみたいと思っている。

 聴いて、読んで、考える時間をゆっくりもてた、とてもいい二日間でした。また来たいなぁ。