本日、新刊『ホットケーキが焼けるまで』を無事下版。本郷三丁目駅の改札を抜けたら徒歩10秒で行ける印刷会社に赴き、最終の白焼き校正を終えた。2階の校正室、窓際のソファに座って、長い長い編集ロードの最後の作業となる白焼きチェックは、いつもながらなんとなく気持ちも浮き立つ。目の前のゴールを前に、ようやく歩みをゆるめ、ゴールのテープを切る自分を想像しながら一歩一歩ゆっくりとテープに向かってゆく、そんな心境だろうか。
いつもは一人の孤独な作業が多い出張校正だけれど、今日は編集者のTさん、デザイナーのKさんがお付き合いしてくださって、ワイワイガヤガヤと楽しいひとときとなった。というのは、3人寄れば文殊の知恵ではないけれど、アッ! という見落としを見つけたり(冷汗!)、一人では決めかねていることも、うま〜く落とし所が見つかるもの。
カバー用紙のマーメイドは絶対135kgと決めつつも迷いもあった私に、帯も共紙だから、一つ薄い115kg でいいと思いますよ〜と、TさんとKさんがやんわり。そっかー、やっぱりそうだよね、と私。見返し用紙のNTラシャも、当初設定のものだと薄いかもね、並製だし……なんてあーだこーだ言いながら、いちばん適切な解を見出していけるのも「3人」のいいところですね。
そんな感じで、本文とカバー周りのあれこれに最終判断を下し、印刷会社の担当Nさんにあとは託して、校正室を後にしたのでした。Tさん、Kさん、Nさん、お疲れ様でした。
ものはついでに、東大構内を抜けて裏門に当たる池之端門まで歩き、門を出たすぐ目の前にある「古書ほうろう」に立ち寄ってきた。新刊『ホットケーキ〜』の宣伝と、今日出来上がってきたばかりの「小さな声で」5号の納品のためです。
「ご無沙汰しております。静人舎の〜」と言いかけたら、「ああ、丁未子さんの本ですね」と店主の宮地さんに言われ、驚くやらうれしいやら。著者の高橋丁未子さんがすでに、本のことを知らせてくれていたらしい。高橋さんは難病のALSのため身体の自由がまったく利かず、24時間ベッドに臥したままだ。でも意識は明瞭で、視線入力で文章を書くことにはまったく支障がない。そんな目力でメール文を打って早くも自著のご案内をしてくださっていたのだ。うれしい。
宮地さんからは3冊のご注文をいただいた。古書ほうろうは、いわゆる新古書店で、人文系の渋い古書の並ぶ中に、新刊の棚もある。そのスペースは決して大きくないが、なるほどなるほど、フムフム、そしてニンマリ…と深く納得してしまう私好みの本が並んでいるのだ。
ここにくるとつい長居をしてしまうけれど、今日はKさんも一緒なので、かなり急いで店内を一回りしたら(それでも15分はいたかなぁ、ごめんなさい)、一冊の本が目に留まった。前から気にはなっていた、けれどもすっかり忘れていた本(最近このパターンが多い)、夏葉社の『冬の本』だ。もちろん購入。
古書ほうろうに来ると、たいていいい出会いがあって、その本を買って帰るが、そのときのふんわりした幸福感は本当にいいものだ。古き良き田舎のよろず屋っぽいお店の風情、店主ご夫婦の人柄を感じさせる佇まい、選書の良さ、この三つが揃った本屋さんは、なかなかない。
『ホットケーキが焼けるまで』がここに置いてもらえる日を指折り数えて待つことにしよう。