今月1日から毎週金曜日、早稲田大学に通っている。高田馬場駅から早稲田通りを早稲田方面にズーッと下っていくと、西早稲田あたりで「く」の字に右カーブする地点がある。三叉路になっていて、右へ行けば馬場下の文学部、左の2本のうち一つは本部校舎(北門、西門)、もう一本を行くと、すぐの道沿いに真新しい19号館(昔はなかった)がある。

 その中の一つの教室で、「万葉集」の講義を受けている。40年前に卒業した大学に、高齢者に仲間入りした齢になって再び舞い戻ったわけだ。先生は同じ文学部の先輩にあたる方で、おん年77歳。教えを乞う先生は、やはり自分より年配が好ましい、と私は思っている。先生には頭を下げて教えを乞うべきだと思うのだ。
 今日で4回目の授業になるが、万葉歌や古代史の解釈の斬新さもさりながら、余談雑談がなんとも楽しい。吉本隆明が…折口信夫が…津田左右吉が…と折に触れて飛び出てくる名前の懐かしさ。先生自身が若い頃、刺激を受けた思想家や学者を語る時の高揚がこちらにもビンビン伝わってきて、高揚感が伝染(感電?)してくる感じがいい。吉本も折口も津田もまだまだ読んでいない本がたくさんある。残された時間でどれくらい読めるかわからないが、さてどれからいこうかと、干からびかけていた闘志が身体の奥のほうでよっこらしょと立ち上がったのだった。

 今日は授業を終えたあと、この講座の事務所に立ち寄るため、40年ぶりに北門から本部校舎の立ち並ぶキャンパスに入った。正門に向かって歩いていると左手に演劇博物館が見えた。アッ、ということは隣に「村上春樹ライブラリー」(早稲田大学国際文学館)があるはずだと気づき、事務所に行くのも忘れ進路変更、入館した。1階エントランスを入ると、すぐ正面には地下へ下りる広い木製の階段。両側には吹き抜けの天井まで伸びる背の高い本棚があって、村上春樹の著作やテーマごとに集められたさまざまな分野の本が並べてある。
 スタッフの女性に頼んで、階段に腰掛ける姿を写真に収めてもらった。大好きな村上春樹になりきった青ーい文学老年の私。
 館内を一巡したあと、本棚に囲まれ静なジャズが流れる休憩室のソファで1時間ほど、ぼけーっと幸せこの上ない無為な時間を過ごした。

 実は昨日、手がけていた一つの仕事が「破談」となって、ちょっと落ち込んでいたけれど、思わずここで全身に浴びた多幸感が、暗い気分を追い払ってくれたようだった。また来ることにしよう。